※この記事は、少し細かい内容となっています。
最高裁令和元年8月9日 第二小法廷(平成30年(受)第1626号 執行文付与に対する異議事件)において、次のような判決がなされました。
『民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。』
問題の所在
上記判例の事例とは異なりますが、説明上の関係から、下記のような相続関係を用います。
A(平成30年5月10日 死亡) 第1の相続
┃
B(平成30年7月10日 死亡) 第2の相続
┃
C
死亡したBが、Aの相続(第1の相続)において、相続の承認又は放棄をせずにBが死亡しました(第2の相続)。
Bの相続人であるCは、①「Bの被相続人Aの相続人としての地位」と、②「被相続人Bの相続人の地位」の2つの地位を同時に取得したことになります。
上記判例では、Aの相続人であった亡Bが、第1の相続において、相続の承認または放棄をせずに死亡した場合に、Cが①の地位に基づき、相続放棄・承認できる期間(熟慮期間)の3か月の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」はいつか?
が問題となりました。
細かいかもしれませんが、熟慮期間の起算点がいつか?はとても大事なお話です。
もし、第一の相続の遺産の中に大きな負債があって、承継するプラスの財産よりも高額であった場合は、せっかく相続したのに大きな負債を抱えることになってしまいます。
上記のような事例におけるCの立場では、Bの遺産だけではなく、Aの遺産についても相続するかどうかを検討しないといけません。当然、相続財産の調査も時間がかかります。
そのため、Cの立場では、熟慮期間の起算点が少しでも遅いほうがメリットがあります。
なお、本件の前提として、Bが生前にAの相続について承認または放棄をせずに死亡した場合に、Cは、①と②の両方の地位に基づいて、別々に相続の承認または放棄ができます(最判昭63・6・21)。
ただし、②の地位で相続の承認または放棄をした後は、①の地位で②の地位で行ったことと反することはできません(どっちを先にしたか?の順番が重要です)。
裁判所の判断
原審では、BがAの相続人であることを知っていることを前提として、CがBの相続につき、「相続人であることを知った時を起算すべき」、としました。
しかし、上記判例では、原審の民法916条の解釈を否定し、Cが、「当該死亡した者(B)の相続により、当該死亡した者(B)が承認又は放棄をしなかった相続(Aの相続)における相続人の地位を、自己(C)が承継したことを知った時」と判断しました。
この判断により、起算点を後ろになりましたので、Cは第1の相続について①「Bの被相続人Aの相続人としての地位」として相続の承認又は放棄を検討することができるようになり、メリットがあることになります。
まとめ
『相続の承認又は放棄の制度は,相続人に対し,被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく,被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるもの』(上記判例)です。
今回の判例により、偶然にも相続人の地位を承継した再転相続人を、より手厚く保護されることになりました。
特に、上記事例で、被相続人Aの相続財産にプラスの財産より、借金などのマイナス財産が多かった場合に、再転相続人であるCにとっては、相続により、思わぬ借金を背負ってしまうという危険を回避できるようになりました。
しかし、ここで確認しておきたいのは、相続財産の調査の重要性です。
借金なんてないだろう、と決めつけて相続してしまう(承認)してしまうのはリスクが高い、ということです。
また、熟慮期間は3か月となっており、相続人からすれば短いと思われます。
完璧に相続財産を調査するのは困難かもしれませんが、少しでも相続におけるリスクを軽減するために、相続が起こったら相続財産の調査をされることをお勧めします。
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