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2025/12/17

「相続の放棄」と「相続分の放棄」

1.はじめに

相続に関する手続きの選択肢の中で、民法938条以下で定める「相続の放棄」があります。

 

似たような選択肢として、「相続分の放棄」という手続きもあります。

 

「分」の1文字が入るかどうかで、法的な効力が異なります。

 


2.相続の放棄

2-1.相続の放棄とは?

相続すると、不動産、預貯金などのプラスの遺産だけでなく、借金などの相続債務もすべての遺産を承継(包括承継)することになります。

 

相続の放棄とは、相続人が相続による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示です。

相続の放棄することにより、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものとして扱われます(民939条)。

 

相続の放棄をした人は、プラスの遺産を受け取ることができない代わりに、借金などの相続債務を免れることができます。

 

プラスの遺産より借金などの相続債務が多い場合に選択する手続きとなります。

 

 

2-2.要件

この相続の放棄については、相続人間だけではなく、被相続人の債権者などの第三者にも影響を与えることから、利用できる要件が民法で定めれています。

  1. 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条)
  2. 家庭裁判所へ申述(民法938条)
  3. 相続を承認する行為をしていないこと(民法921条)

 

2-3.他の相続人への影響

相続の放棄を行わなかった(単純承認した)他の相続人の相続分への影響は、相続関係により異なります。

 

法定相続人(相続分) 相続の放棄をした人

他の相続人

(相続分)

配偶者(2/4)、子2名(各1/4) 配偶者 子2名(各1/2) 
配偶者(2/4)、子2名(各1/4) 子1名 配偶者(1/2)、子(1/2)
配偶者(2/4)、子2名(各1/4) 子2名(※1)

配偶者(2/3)、直系尊属(1/3)

又は

配偶者(3/4)、兄弟姉妹(1/4)

※1

先順位の相続人全員が相続の放棄をした場合、次順位の相続人に相続権が移ります。

 


3.相続分の放棄

3-1.相続分の放棄とは?

相続分の放棄は、相続人としての地位はそのままで、自己の相続分すべてを他の相続人に対して与える(または自己の相続分をゼロとする)意思表示です。

 

3-2.要件

相続の放棄とは異なり、相続人間でのみ効力を生じる手続きのため、利用できる要件は特に定めれていません。

 

しかし、相続分の放棄は、他の相続人の相続分に影響を及ぼすことになるため、遺産分割協議が成立するまでに行うことになります。

 

また、相続分の放棄をしたことは、税務署・法務局・金融機関などの手続き先では分からないため、実務上は、相続分を放棄した旨の証明書(実印で押印)と「印鑑証明書」を提出して、相続手続きを行うことになります。

*手続き先により、求められる書類等が異なる場合があります。

 

3-3.他の相続人への影響

相続分の放棄をすると、放棄した人の相続分は、他の相続人の相続分が等しく変動します。

 

たとえば相続人4名(各相続分はそれぞれ等しいとします。)のうち、1名が相続分の放棄をした場合、他の相続人の法定相続分は各3分の1となります。

【計算式】

相続分の放棄した人の相続分:1/4×1/3=1/12

他の相続人の相続分:1/4+1/12=4/12(通分して1/3)

 

3-4.その他

類似の手続きとして「相続分の譲渡」があります。

 

相続分の譲渡は、自己の相続分を、譲渡(売買又は贈与)する方法(契約)です。

 

相続分の放棄が他の相続人全員の相続分に影響を与えるのに対し、相続分の譲渡は譲渡された相手方の相続分にのみ影響を与えます。

 


4.まとめ

「相続の放棄」と「相続分の放棄」を表で比較すると、以下のとおりです。

項目 相続の放棄 相続分の放棄

相続人の地位

はじめから相続人でなかったものとみなされる(相続人から除外される) 相続人のまま

相続分の変動等

状況により異なる。

  • 他の相続人の相続分が増える
  • 次順位の相続人に移行する
  • 相続人不存在(相続人が全員いなくなる)

他の相続人に対して、等しく相続分を変動させる

相続債務

負担義務なし 負担義務あり
いつまで? 原則、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内 遺産分割協議成立まで
放棄の方法 家庭裁判所に申述書を提出

特になし

「相続の放棄」「相続分の放棄」以外にも、遺産分割協議で「遺産を取得しない(取得分ゼロ)」との意思表示をすることも可能です。

 

相続関係や状況に応じて、どの手続きを選択するか検討することになります。

 

相続は簡単そうに見えて、難しい判断が求められる場合があります。

 

安易に選択して後日後悔しないために、要件や法的効果をきちんと確認してから、適切にご判断されることをお勧めいたします。

 

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